toggle

COSMIC WONDER Free Press

記録のなかの記憶

Jul 18, 2015 | COSMIC WONDER Free Press 

adocumentofmemories-1

 

前田征紀からその会のことを聞いた日、自分がそこに足を運べるとは夢にも思っていなかった。電車もなく、バスもない。京丹波の山の奥。そこで前田征紀と、陶芸および手工芸の聖地のようなgallery白田を主宰する石井すみ子の美術ユニット「工藝ぱんくす舎」、そしてCOSMIC WONDERによる創造的な集い、「かみのひかりのあわ 水会」が行われる、という知らせを3月30日月曜日に、京都で聞いた。その話を聞いた時に昼食をともにしていた、竹に囲まれた土壁の部屋は、京都の繁華街の中央にありながら、前田が「ここにくると落ち着く」という韓国ふうなしつらえの料理の店だった。そのときはまだ、その会の具体的なこと、詳細なスケジュールやどのように水会の儀式を行うかなどはまだ、ぼんやりとしか決まっていない、という印象であった。その日から、まさに4週間後の4月27日月曜日に、前田征紀と、京都の菜食野草料理の料理人加藤祐基と、ふたたびこの店に来て昼食を食べた。今度は3人ではなく、前田とともにCOSMIC WONDERを創設し現在は宮崎県に住む安田都、26日に開催された水会を写真で記録するために東京から招待された長島有里枝、そして私、私と同様に東京からこの催しに参加した兼平彦太郎、京都から同席した岡田充洋も加わっていた。水会を映像で記録した志村信裕は拠点の山口県に仕事を残していたため、この日はすでに帰宅していて、いなかった。

私たちは前日におこなわれた、とても不思議な催しや出会った人について口々に語った。ギャラリー白田は陶芸家の主人をもつ石井すみ子が主宰する物販もかねたこじんまりとした展示空間だが、そこは豊かな萌葱色の自然に包まれていた。このギャラリーと夫妻の生活空間、ならびに夫石井直人の登り窯を取り巻く空地と、その奥の山の杉林を舞台として、この日、突如として白い紙のふくを着た人たちが、まるでごっこ遊びをおこなうかのように、紙と神と水と土と光についての、私たちが暮しのなかで触れ合うことのある美しいものたちの存在を印象深く示すパフォーマンスが、おこなわれたのであった。手作りのお菓子と、手透きの和紙。それはどちらも土からきたものとかかわり、自然と密接にかかわり、人の手でつくられた、泥臭い手の仕事であり、かつ、もっとも新しい創造の先端であることが、山奥にまねかれ白い紙の上に座り、目の前で「水会」のめくるめく出来事を体験した参加者は、各人各様に、理解したのだった。

 

エレンのために短文を寄せる仕事を担ってこの「水会」に参加した私も、これが短文では伝え記せないことであることは、すぐに自覚した。どうしたらよいものかと思いながら、その翌日、昼食会の前に京都市街地を一人で歩いていた。そこには京都ならではの、二階建ての町屋を今ふうに改造したファッションブティックが、ところせましと並んでおり、流木や民藝品をエントランスやウィンドウに配しながら、自然との融和をアピールする小売店が列をなしていた。それらの店が開店する前の時間帯に、数時間後には人でいっぱいになる繁華街の賑わいを想像しながら、一方で、前田が理想郷として半年後に移住をきめている美山地域の風景を、思い浮かべた。「水会」のあと日暮れまでに、私たちは1時間車を走らせて、前田の次なるステップの舞台である美山郷まで向かっていたのだった。

 

京都の山奥からまたべつの山奥へ、萌葱色のけしきにつつまれながらしばらくのドライブを経て、私たちは茅葺き屋根のいえいえが点在する、山に囲まれて清流の流れるその郷についた。日が暮れようとしていた。むかしの日本人の暮しがそのまま保存されているようなこの郷に、これから暮らし創り続けようとするCOSMIC WONDERの21世紀を思い、彼らの勇気ある決断と、つねに追随を許さない美への探求にあらためて、「工藝ぱんくす舎」と名乗ろうとする「ぱんくす」の精神をみた。

 

COSMIC WONDERの先鋭性が、世間にそのままに理解されたことは、かつても今も、ほとんどなかったと思う。そして彼らの追求するせかいは、心身ともにハードワークを要求するせかいでもあるのだが、すすんでそのせかいの住人になろうとする才能豊かな人たちが、家族のように前田征紀の周辺を取り巻いていることを、私は知っている。10年以上私もそのせかいの住人になっているので、だいたいのことはわかっている。わからないようで、わかっているつもりだ。たしかなことの一つは、15年前には私も彼らも、その眼差しを外の国へとむけていた。今はその眼差しを、日本とその源流に向けているということである。そこへと向かわせる理由は、何をおいても、暮らしのなかの美の探求なのである。それをきわめて行くと行き着く先に、素直に従っていこうとしているまでのことなのである。21世紀というこの時代の、現代を生きる感覚として。

 

2015年4月28日 林 央子

 

adocumentofmemories-2

adocumentofmemories-3

Film still by Nobuhiro Shimura

 

COSMIC WONDER with Kogei Punks Sha / The Kamino-hikarino-awa Water Ceremony was performed on the 26th of April, 2015 as part of the exhibition “MIERU Kami“.

+ Share