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逹富 一也
Ajrakh

アジュラック(Ajrakh)は、インド西部のカッチと呼ばれる地方に伝わる伝統的な木版捺染(block print)の布です。もともと現地の牧民が肩に掛けたり、頭や腰に巻いたりして使っていた布です。インド藍の青とインド茜の淡い赤と、日本では昔お歯黒の原料にも使われた酸化鉄の黒を基本色としています。
昨年は例年にない大雨の日が続き、アジュラックの生産にも支障を来していました。 私たちのアジュラックの染色も遅れ遅れになってしまい、少し心配し始めていたのが職人集団のリーダーであるスフィヤン(Sufiyan)です。 本来のアジュラックは、古代の人が宇宙とその多数の星座に敬意を表してデザインしたと言われる幾何学模様が多いのですが、スフィヤンは斬新なデザインにも興味を持って制作してくれます。私たちの小花柄のデザインに対しても「素敵だね」と言って、木版を彫るところから関わってくれました。スフィヤンの工房には、この地方の在来種であるKala Cottonの手織りの布が捺染台にピンと張られています。スフィヤンが見守る中、職人の深いシワの目立つ手が木版を握り、それをアラビアガムと石灰で作った防染液に浸けて、布に強く押し当てると、うっすらと花柄の輪郭が現れました。 「良いデザインだ」とスフィヤンは微笑みますが、彼はまだ気を緩めてはいません。なぜならアジュラックはもともと「aaj-rakh」というグジャラート語に由来しており、「作業はまだ次の日も続くよ」というような意味に解釈される言葉だからです。その言葉通り、その日の天気と気温を気にしながら、まだこれから何週間もの作業が必要です。使う染料に応じて媒染をし、染色をして、藍染めをし、天日干しをして、大きなプールで何度も洗い、再び藍染めし、そしてまた乾燥。この工程は、3000年以上に渡る苦労と愛情によって築かれた職人の魂と言えます。
出来上がったCOSMIC WONDERのアジュラックは、ドレスやストールとなって、カッチの牧民が育んだ冬を暖かく、夏を涼しく暮らすという恩恵を、私たちにもたらしてくれるでしょう。
2025年1月17日 逹富 一也

