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COSMIC WONDER Free Press

すばらしいおどろき

May 13, 2015 | COSMIC WONDER Free Press 

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工業的につくられた服や、化学繊維を好きになったことは一度もなかった。いつも、この服は何でできているのか、ラベルを確認していた。けれども数年前、私は完全に別な世界と出会った。オーガニックコットン、エコロジカルに生産されたウールだけでなく、麻、ヘンプ、アルパカなどの、化学薬品を用いずに製造された布。このような素材に導かれて、それらをつくりだす職人への好奇心がわいてきた。それらを紡ぎ、編み、織り、染める人たちへと。植物染めの本を読んで、それまで知らなかった色を発見することで、審美的な衝撃をうけた。けれども、オーガニックテキスタイル世界基準をみたしたエコロジーブランドの衣服は好きになれなかった。それらはデザインとカットが悪く、多くは醜かったからだ。私の心のなかには、美しさへの希求と、天然素材や自然由来の色を欲するきもちがあって、そこに葛藤があった。

去年、COSMIC WONDERの新しい方向性を知ったときに、夢が現実になった。あえて期待していなかったその夢が。私は彼らのデビューコレクション「First Light」を発見した。前田征紀はヘンプ、アルパカ、麻や、私が存在すら知らなかった素材、たとえば苧麻、アバカ、葛布などを用い、それらを車輪梅の花、ロッグウッド、アレカカテキュ、ラックなどの植物で私が夢見ていた色に染め、すばらしい服をうみ出していた。それは啓示だった。私はそれまで得ることのできなかった、喜びの感情にみたされていた。「アーティストは、時代とともに生きなければいけない」ということわざについてよく私は考えるのだが、最初の2つのコレクション「First Light」と「Natural Breathing」を見たときに、この言葉が浮かんだ。これらの服は、私たちが生きている時代への深い理解にもとづいて、つくり出されている。これらの服の美しさは、崩壊しつつある世界から立ち上がった。前田征紀は、これまで踏み歩かれた道を辿ることを避ける勇気と、正直さを抱いたのだ。さらには、今日において珍しいことに、彼は彼の思想と完璧なハーモニーをもって生き、かつ創造することを、やってのけているのである。
 
衣服についてそのように考えることは、生活すること、食べること、自身の体をいたわることについての、まったくことなる考えかたのなかの一部なのである。その実践はシンプルなことだけれど、たくさんの仕事と時間を要求する。知識と同時に、ある技術を習得することも必要だ。しばしば、そのような技術は、ここ2世紀にわたる熱狂的な工業化によって埋め込まれてしまってほとんど現存しない。それを遡るためには、再発見がなされなければならないのだが、それこそが、前田征紀が実践しているリサーチの対象だ。彼の美しい提案は、聖なる自然から採取された豊富な素材をもとに、いにしえからつらなるさまざまな繊維と日本の手工芸を結びつけ、それらをたて直す。こうしてうまれた服は人間の手によってつくられていることに加え、意味深い歴史をもつ。現代においてはどこにいたとしても、服を製造するということは、誠にもって悪夢 (汚染、破壊、奴隷制)について考えをめぐらすことである。とても考えたくないことなのだが。しかし彼らの場合は、どの製造段階を想像しても楽しい。植物の収穫、動物と共生すること、紡ぎ、織り、染めること。それらすべては、生きることのイメージを輝かせ、光を放つ。

 

数日前、春が訪れた。私は野生のハーブをつみにでかけた。この素晴らしい、赤いアンサンブル (ラミーと大麻によって織られた)を着て。

 

2015年3月 エレン・フライス

 

フランス語から英語への翻訳: ブルース・ベンダソン

英語から日本語への翻訳: 林央子

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