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Free Press

Elein Fleiss
去りゆく

Dec 12, 2025 | Free Press 

elen

 

昨夜、矢内原伊作の著書『ジャコメッティとともに』の前編を読み終えた。1956年に彼がフランスを去る場面で終わる。彼は帰国を幾度も延期していた。フランスでの二年の海外 生活を経てついに日本へ帰る彼の描写は極めて精密だ。アルベール・ジャコメッティと妻アネットと共に空港バスに乗り、空港のカフェで過ごし、空港の手続きを済ませ、飛行機へ向かって歩く様子。ジャコメッティとアネットが空港のテラスから手を振る、胸が張り裂けるような彼らの別れ。そしてローマ、テヘラン、カラチ、サイゴンと何度も経由する飛行機の旅、そしてついに日本に到着するまでが綴られている。本を閉じたとき、私は涙が止まらなかった。

 

ここ数年、私は日本を離れることがますます辛くなってきた。2020年、東京写真美術館での展覧会オープニングディナーの後、友人のユキノリと別れた夜のことを覚えている。目黒のモダンな街角で、レストランを出て外に立っていた。コロナ禍直前で、しばらく彼に会えないだろうという予感がした。目に涙が浮かんでいた。 帰りの飛行機では、矢内原伊作のように泣いてしまい、娘が心配そうに私を見ていた。

 

昨年、最後に日本を訪れた時のことを思い出す。京都・宮津でユキノリと友人たちと過ごし た日々。美しい光の中、メインストリートを歩き、間人ギャラリーで開催中の*AAWAA「丹」展や、彼が古い織物工場や民家を改装し設計した空間を訪れた。その時、コーヒーを飲み たくなった私たちは店を探し、海辺のこの小さな町を歩き回ったが、開いている店は見つからず、結局地元のスーパーでジャンクフードを買って、外にあるベンチに五人並んで座った。これはなぜかとても大切な思い出で、ジム・ジャームッシュの映画のような雰囲気のある何気ない瞬間だった。

 

あの日を思い出すと、とてもノスタルジックな気持ちになる。娘のクラリッサが幼い頃、私はたくさんの古き良き時代の児童書を買っていた。ある日、アレン・セイの大きなハードカバー本『祖父の旅』を見つけた。表紙には船の甲板に立つアジア系の男性が描かれていた。彼は長い黒いコートをまとい、山高帽をかぶっていた。この作家のことは知らなかったが、20世紀初頭に日本からカリフォルニアへ渡ったアレン・セイの祖父と、晩年に妻と娘を連れて日本へ帰還した物語だった。アレン・セイはわずかな言葉で亡命の郷愁を私に感じさせ、胸の奥深く響かせた。私の父方の家系も亡命者であることを自覚したのだ。祖母はドイツ生まれ、祖父はウクライナ生まれで、戦時中にはブラジルで7年間暮らした。そして、父は14歳の時にブラジルを離れた。これが私の物語の一部だ。

 

2025年9月30日

 

Text and photograph by Elein Fleiss

 

*前田征紀(ユキノリ)の作家名AAWAA

 

elein's grandmother

 

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